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大阪地方裁判所 昭和60年(ワ)8111号 判決

原告

大田丁

岡本みちの

小川ます

金子幸次郎

河野勇

佐藤吉太郎

土田新郷

村上薫蔵

右八名訴訟代理人弁護士

山崎俊彦

外一九八名

被告

石川洋

石松禎佑

北本幸弘

薮内博

主文

一  被告らは、各自、原告大田丁に対し、金二一四万二〇〇〇円、同岡本みちのに対し、金一五二万五三〇〇円、同小川ますに対し、金四一一万円、同金子幸次郎に対し、金二三万八五〇〇円、同河野勇に対し、金一三四七万八〇〇〇円、同佐藤吉太郎に対し、金七八三万八一六〇円、同土田新郷に対し、金二三七万八六三五円、同村上薫蔵に対し、金四九七六万二二三〇円、及び右各金員に対する被告薮内博については昭和六一年一月八日から、同石松禎佑及び同北本幸弘については同年三月一五日から、同石川洋については同年五月三〇日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告大田丁、同金子幸次郎、同河野勇、同佐藤吉太郎及び同村上薫蔵のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は被告らの負担とする。

四  この判決は主文第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、各自、原告大田丁に対し、金三一四万六六二五円、同岡本みちのに対し、金一五二万五三〇〇円、同小川ますに対し、金四一一万円、同金子幸次郎に対し、金二五万二四七五円、同河野勇に対し、金一九九六万五五九〇円同佐藤吉太郎に対し、金七八四万八一六〇円、同土田新郷に対し、金二三七万八六三五円、同村上薫蔵に対し、金五〇五四万一九五〇円、及び右各金員に対する被告薮内博については昭和六一年一月八日から、同石松禎佑及び同北本幸弘については同年三月一五日から、同石川洋については同年五月三〇日からそれぞれ支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  第1項につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

被告薮内

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告らは、訴外破産会社豊田商事株式会社(以下「破産会社」という。)との間で、昭和五八年四月から昭和六〇年三月にかけて、いわゆる「純金又は白金ファミリー契約」を締結した者である。

2  被告らは、以下のとおり、破産会社の経営、業務一般を管掌する中心的な代表取締役又は取締役の地位にあつた。

(一) 被告石川

昭和五七年六月二二日以前から破産会社の破産のときまで取締役、そのうち昭和六〇年二月一日から同会社の破産のときまで代表取締役

(二) 同北本

昭和五六年六月九日から昭和五九年四月一四日まで取締役

なお、昭和五九年四月一四日から、破産会社の関連会社、いわゆる豊田商事グループの中核訴外銀河計画株式会社(以下「銀河計画」という。)の破産のときまで、同会社の取締役

(三) 同薮内

昭和五七年六月二二日から昭和六〇年二月一日まで取締役

なお、昭和五九年四月一四日から銀河計画破産のときまで同会社の取締役

(四) 同石松

昭和五七年四月二二日から昭和六〇年二月一日まで取締役

なお、昭和五九年四月一四日から銀河計画破産のときまで同会社の取締役

3  破産会社の事業内容

(一) 破産会社は、いわゆる純金ないし白金ファミリー契約証券取引を中心に事業を行つてきた。

(白金ファミリー契約証券取引は、純金が白金に替わる以外は、純金ファミリー契約証券取引と同様である。)

(二) 純金ファミリー契約証券取引とは、金地金を顧客に購入させるとともに、これを破産会社に一年ないし五年間預けさせ、破産会社は、顧客に対して、預かつたことを証する証券(純金ファミリー契約証券)を交付し、金地金の賃借料として、一年契約のとき年一〇パーセント相当額の、五年契約のとき年一五パーセント相当額の現金(純金ファミリー契約金)を支払い、満期に金地金を返還するという、破産会社独自の形態の契約である。

右賃借料の初年度分は、契約締結時に支払うこととされているため、顧客は、実質的に金地金を一〇ないし一五パーセント安で購入したうえ、金の値上がり益と、その後の賃借料収入の両方を得ることができるという、顧客にとつて一見極めて有利にみえる取引である。

4  破産会社の事業の詐欺性

破産会社は、以下のとおり、顧客が購入した金地金をほとんど保有しておらず、また、その事業は赤字とならざるをえないものであり、顧客に対する債務を履行することは不可能であつたにもかかわらず、巧妙で、執拗かつ強引な勧誘により、純金ファミリー証券契約取引を行つてきた。

(一) 金地金保有の欠如

純金ファミリー契約証券取引の顧客は、破産会社において金地金の現物取引を行つており、自己が購入して預けた金地金も破産会社で現実に保有ないし運用されているものと信頼して契約していた。

ところが、破産会社は、自己が締結した純金ファミリー契約証券取引に対応するだけの金地金を保有しておらず、顧客から受け取つた金員を他の用途に費消していた。

破産会社の行為は、業として、現実の金地金の裏付けなしに、金地金購入代金と称して金銭を不特定多数の者から集めていたものであり、出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律二条に違反する違法性の強いものである。

(二) 破産会社の倒産の必然性

破産会社が純金ファミリー契約証券取引に基づく債務を履行し、営業を続けていくためには、顧客から集めた資金によつて、会社の営業経費、年一〇ないし一五パーセント相当の賃料、顧客に返還する時点での金の値上がりに備えるための引当金などすべてをまかなえるだけの、極めて高率の収益を確実に上げる必要があつた。

ところが、破産会社は、設立から倒産まで一期も利益を計上したことはなく、毎期極めて多額の損失を計上しつづけていた。

破産会社の財務内容をみると、顧客から集めた金員の約四〇パーセントもの販売費、一般管理費を支出しており、しかも、その大部分が、破産会社の役員、営業社員などに対する異常に高額の報酬、賞金として費消されていた。

破産会社は、資金の一部を商品取引相場への投機資金、関連会社への貸付け等に支出してはいるが、投下資本の回収さえおぼつかないものが大部分であり、前記の純金ファミリー契約証券取引に基づく債務等を履行するために必要な資金を獲得できるような資金運用は、なされていなかつた。

そのため、破産会社は、純金ファミリー契約証券取引を継続して新たな資金を集め、延命をはかつていたのであるが、それは、さらに欠損を増大させざるをえないものであり、早晩、破産会社が倒産に立ち至ることは、明白であつた。

(三) 破産会社の巧妙で、執拗かつ強引な取引勧誘

金地金の取引については、その換金方法などの制度はまだ整備されておらず、また、破産会社は、前記のような金地金の保有情況であり、財務内容であるにも拘わらず、営業社員に、顧客に対して破産会社の金地金の保管状況、資産状態など取引を決定するために必要である重要な事項を説明させず、このような取引について無知、無経験の顧客に対し、「絶対損はしない。」「必ず儲かる。」などの断定的な利益誘導をさせて取引を行つてきた。

しかも、破産会社は、不特定多数の者に対し無差別に電話をかけ、一方的に営業社員を訪問させ、取引上の常識を越えた極めて長時間にわたる執拗かつ強引な純金ファミリー契約証券取引の勧誘を行つてきた。

また、破産会社は、大阪駅前第四ビルの本店のほか、全国各地の一等地に支店などを設け、その内装、家具調度類を豪華にすることなどによつて、顧客に破産会社が優良企業であると誤信させようとしていた。

5  原告らに対する破産会社従業員の勧誘行為及び原告らの破産会社従業員に対する金員交付等は別紙取引経過等一覧及び別紙交付金一覧表(一)記載のとおりである。

6  被告らの責任

被告らは、破産会社及び破産会社を支配、統括していた銀河計画の代表取締役または取締役の地位にあつて、共謀のうえ、前項の破産会社従業員の行為を含む破産会社の違法な事業を企画し、実行してきた。

7  原告らの損害

別紙損害一覧表(一)記載のとおりである。

(一) 実損害額

原告らが破産会社に現実に交付した金額

(二) 慰謝料

原告らは、破産会社の行為によつて、多大の精神的苦痛を与えられたが、慰謝料の額としては、実損害額の約一〇パーセントが相当である。

(三) 弁護士費用

右の原告らの被害回復のためには、弁護士の関与が不可欠であり、これに対する報酬額としては、右の実損害と慰謝料の額を加算した額の約一〇パーセントが相当である。

よつて、原告らは、被告らに対し、共同不法行為による損害賠償請求権に基づき、各自、原告大田丁に対し、金三一四万六六二五円、原告岡本みちのに対し、金一五二万五三〇〇円、原告小川ますに対し、金四一一万円、原告金子幸次郎に対し、金二五万二四七五円、原告河野勇に対し、金一九九万五五九〇円、原告佐藤吉太郎に対し、金七八四万八一六〇円、原告土田新郷に対し、金二七四万二八〇五円のうち金二三七万八六三五円、原告村上薫蔵に対し、金五三二九万九九五〇円のうち金五〇五四万一九五〇円及び右各金員に対する訴状(原告河野勇につき昭和六〇年一一月五日付請求の減縮申立書)送達の日の翌日である、被告薮内については昭和六一年一月八日から、同石松及び同北本については同年三月一五日から、同石川については同年五月三〇日から各支払い済みまで民法所定の年五分の割合による各遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  被告薮内

請求原因事実はすべて否認する。

2  被告石川、同北本及び同石松は、公示送達による適式の呼出を受けたが、本件口頭弁論期日に出頭しないし、答弁書その他の準備書面も提出しなかつた。

第三  証拠〈省略〉

理由

一請求原因1、5及び7の(一)について

1  同1、5及び7の(一)の各事実(ただし、原告大田が破産会社従業員に交付した金額、同原告の実損害額、原告河野が破産会社従業員に交付した金額、同原告の実損害額、原告佐藤が昭和五八年四月一六日に破産会社従業員に交付した金額、同原告の実損害額、原告村上が昭和五九年九月一一日、同月一三日及び同年一一月一三日に破産会社従業員に交付した金額並びに同原告の実損害額を除く)は、〈証拠〉により認められる。

2  同5の事実のうち、原告大田が破産会社従業員に交付した金額、原告河野が破産会社従業員に交付した金額及び原告村上が昭和五九年一一月一三日に破産会社従業員に交付した金額について判断するに、〈証拠〉によれば、右の原告らは、少なくとも、後記のように本件契約の際破産会社従業員から交付された各純金又は白金ファミリー契約証券記載の純金又は白金一グラムあたりの金額に同証券記載のグラム数を乗じ、これから同証券記載の一年分の純金又は白金ファミリー契約金の金額を控除した金額である別紙交付金一覧表(二)の該当欄記載の金額を破産会社従業員に交付したことが認められる。しかし、これらの金額を越える部分については、〈証拠〉によつて右各原告らが特定された、明確な金額を交付したものと認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

3  原告佐藤が昭和五八年四月一六日に破産会社従業員に交付した金額について判断するに、〈証拠〉によれば、同原告が同日破産会社従業員に交付した金員は、一グラム当たり三三七九円、手数料六万七五八〇円の一〇〇〇グラム分の純金ファミリー契約の代金から初年度分の純金ファミリー契約金三三万円を控除し、さらに、前日に交付ずみであつた一万円を控除した、三一〇万六五八〇円だけであることが認められる。この金額を越える部分については、甲第七号証の一にこれに沿う、同日、三一一万六五八〇円を交付した旨の記載があるが、この記載は、右認定のように計算される事実に照らしただちに措信することはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

4  原告村上が昭和五九年九月一一日及び同月一三日に破産会社従業員に交付した金額について判断するに、〈証拠〉によれば、同原告が同月一一日に破産会社従業員に交付した金員は一〇〇グラム分の純金ファミリー契約の手付金一万円だけであり、同月一三日に破産会社従業員に交付した金員は、甲第一二号証の二の一〇〇グラムの純金ファミリー契約証券に対応する契約代金(これは、右証拠により、甲第一二号証の一の末尾に、昭和五九年九月一一日、数量一〇〇グラムの現物金額として記載されている二八万一一九〇円であると認められる。)から初年度分の純金ファミリー契約金三万九〇〇〇円及び同月一一日に交付した右の一万円(合計四万九〇〇〇円)を控除した二三万二一九〇円だけであると認められる。この金額を越える部分については、〈証拠〉には破産会社に同原告から同月一一日、二四万二一九〇円の入金があり、同月一三日、二三四万九七二〇円の入金があり、破産会社に交付した金員の合計額は少なくとも四一八七万一九五〇円である旨の記載があるが、これらの記載は右認定事実に照らしただちに措信することはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

5  以上の事実を総合すれば、原告大田、同河野、同佐藤及び同村上の各実損害額は、別紙損害一覧表(二)の該当欄記載のとおりであることが認められる。

6  したがつて、原告らが破産会社従業員に交付した金額は、別紙交付金一覧表(二)に記載のとおりであり、原告らの実損害額は別紙損害一覧表(二)の実損害額欄に記載のとおりである。

二同2ないし4及び6の各事実は、〈証拠〉により認められる。

三右の各認定事実によれば、被告らの行為は違法であり、被告らは各自、原告らに対し、原告らの前記実損害額及び右行為と相当因果関係にある範囲内の原告らの被つた精神的損害並びに本訴訟のための弁護士費用について、不法行為責任を負うものと認められる。そして、原告らの右精神的苦痛を慰藉するには別紙損害一覧表(二)の慰藉料欄記載の各金額をもつて相当と認め、右弁護士費用についても前記実損害額等諸般の事情を考慮して、右一覧表の弁護士費用欄記載の各金額が相当と認められる。

四本件訴状(原告河野につき昭和六〇年一一月五日付請求の減縮申立書)が、被告薮内に対しては昭和六一年一月七日に、同石松及び同北本に対しては同年三月一四日に、同石川に対しては同年五月二九日に送達されたことは、本件記録上明らかである。

五結論

よつて、原告岡本、同小川及び同土田の本訴請求は、いずれも理由があるからこれを認容し、同大田の本訴請求は金二一四万二〇〇〇円、同金子の本訴請求は、金二三万八五〇〇円、同河野の本訴請求は金一三四七万八〇〇〇円、同佐藤の本訴請求は、金七八三万八一六〇円、同村上の本訴請求は金四九七六万二二三〇円の各金員の支払及び右各金員に対する前記訴状(原告河野につき昭和六〇年一一月五日付請求の減縮申立書)送達の日の翌日から支払い済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを被告らに対し、求める限度でそれぞれ理由があるから、右の限度でそれぞれこれを認容し、同大田、同金子、同河野、同佐藤及び同村上のその余の請求は失当であるから、いずれもこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条但書、九三条一項本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官小北陽三 裁判官辻本利雄 裁判官長谷川恭弘)

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